学会誌  

『日本医学看護学教育学会誌』 第29号No.2 (2020年10月 1日発行)

原著 精神科入院認知症患者の家族に生じる代理決定に伴う心理 錦織典子
原著 看護実践における新人看護師のモデリングの様相 長野弥生
報告 看護系大学生の学習意欲を高める要因の探究 藤原みのり
報告 イギリス英語における医療語―医療スラングの「ことばと文化」を探る 田中芳文
報告 材料に食品を用いた「尿試験紙用の疑似尿」の作成と安定性 太田克矢
報告 学童期の発達障害児を養育する母親の困難に関する文献検討 高橋恵美子

精神科入院認知症患者の家族に生じる代理決定に伴う心理
A study on psychology accompanying surrogacy decisions occurred to the family of a dementia patient hospitalized in a psychiatric ward.

錦織典子 1,石橋照子 2,大森眞澄 2
Noriko Nisikoori 1, Teruko Ishibashi 2, Masumi Ohmori 2

1 島根県立中央病院,2 島根県立大学
1 Shimane Prefectural Central Hospital, 2 The University of Shimane

概要(Abstract)

本研究では,精神科病棟に初回入院となった認知症患者の家族が,入院の決定から退院するまでの期間に行った重大事項の代理決定プロセスと,それに伴って生じた心理を明らかにすることを目的とした。9人の研究参加者から,入院の決定から退院までの期間に代理決定を繰り返した体験について,半構成的面接によりデータ収集し,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析した。研究参加者と患者との関係は,配偶者が2名,子が7名であった。
分析の結果,患者に代わって代理決定した重大事項は,①精神科への入院の決定,②症状コントロールに関する治療内容の選択,③延命に関する治療内容の選択,④退院先と社会資源の選択の4つに分類でき,代理決定プロセスには, 重大事項に関する選択肢の提案選択肢を吟味するプロセス代理決定フィードバックのプロセスが見られた。
代理決定した家族は,吟味のプロセスに伴う沈滞の心理として,【閉塞感】【イメージ化の困難】【意思の揺らぎ】【無援感】,吟味のプロセスに伴う賦活の心理として【期待感】【引き受ける覚悟】,フィードバックのプロセスでは,【決定への後悔】【決定への納得】のいずれかの心理を体験していた。そして,一連の代理決定プロセスとそれに伴う心理は,次の重大事項に対する代理決定のプロセスと心理に影響を及ぼしながら,重大事項の代理決定のプロセスは循環していた。

キーワード(Keywords)

認知症患者家族,代理決定,BPSD,精神科病棟,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ
family of patient with dementia, surrogate decision-making, BPSD (Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia) Psychiatric wards, Modified Grounded Theory Approach

看護実践における新人看護師のモデリングの様相
Aspects of novice nurses’ modeling in nursing practice

長野弥生 1,細田泰子 2,紙野雪香 2
Yayoi Nagano 1, Yasuko Hosoda 2, Yukika Kamino 2

1 神戸女子大学,2 大阪府立大学大学院看護学研究科
1 Kobe Women’s University, 2 Osaka Prefecture University Graduate School of Nursing

概要(Abstract)

目的:看護実践における新人看護師のモデリングの様相を明らかにし,新人看護師教育への示唆を得る。
方法:一般病床数500 床以上の医療施設に勤務しており,就職するまでに就労経験のない新人看護師20名に対し半構成的面接を行い,修正版Grounded Theory Approachによる分析を行った。
結果: 新人看護師のモデリングは,《先輩を観察する》ことで《観察したことを考える》ようになり,探究したことについて《試行錯誤を繰り返す》ことをしながら,《自分の看護実践を導く》段階を踏んで,自身の行動パターンとして遂行していた。
結論:新人看護師のモデリングにはプロセスが存在するため,各プロセスに応じて適切な支援をすることが求められる。

Purpose: The purpose of this research is to clarify aspects of novice nurses' modeling in nursing practice and to obtain suggestions for novice nurses' education.
Method: Semi-structured interviews were conducted with 20 novice nurses who worked at hospital with more than 500 beds. They had no working experience before they got a job. The analysis was performed using the modified grounded theory approach.
Results: Aspects of novice nurses'modeling consisted of four categories: "observe seniors," "think about observing," "repeat trial and error," and "draw own nursing practice." Novice nurses'modeling followed the process that, after observing seniors, they thought about the intention and meaning of seniors' actions, repeated trial and error to do the same things as seniors did, perform similar seniors' nursing practices, and draw own nursing practices.
Conclusion: Novice nurses' modeling has a process, so support is required for each process.

キーワード(Keywords)

看護実践,新人看護師,モデリング
nursing practice, novice nurse, modeling

看護系大学生の学習意欲を高める要因の探究
Exploration of factors that promote the learning motivation of nursing students at universities

藤原みのり, 二井谷真由美,今井多樹子,髙瀬美由紀
Minori Fujiwara, Mayumi Niitani, Takiko Imai, Miyuki Takase

安田女子大学
Yasuda Women’s University

概要(Abstract)

目的:本研究の目的は,看護学生の観点から,学習意欲に影響を与える要因について探究することである。
方法:看護系大学に所属する2~4年次生500名を対象に自由記述質問からなる質問紙調査を行い,108名から得たデータを質的帰納的に分析した。
結果:学習意欲に影響を与える因子は7カテゴリー,19サブカテゴリーから構成された。学生の学習意欲は【興味関心,探究心を刺激される学び】や【自身の将来や生活への関連性と有益性を感じられる学び】【適切な看護を提供するという使命感】【学びにより獲得される達成感や充実感】から医療者になるという目標が学習意欲向上に繋がっていた。また,学生の学習意欲は【良い成績・評価を得るため】【周囲からの刺激】【期待に応える必要性】を感じる際にも高まり,他者より有能でありたいという目標が学生を動機づけていた。
結論:学生の学習意欲を高めるためには,学習達成目標を強化するような教育的支援が必要である。

キーワード(Keywords)

看護系大学生,学習意欲,目標達成
nursing students at universities, learning motivation, achievement goal

イギリス英語における医療語―医療スラングの「ことばと文化」を探る
Medspeak in British English: A Linguistic and Cultural Study of Medical Slang

田中芳文
Yoshifumi Tanaka

島根県立大学
The University of Shimane

概要(Abstract)

Medspeakと呼ばれる英語の医療語辞典を改訂・増補するために,医療現場で使用されているスラングについて調査・研究をした。具体的には,英国の医療現場を舞台にしたノンフィクション作品から抽出したスラングを「ことばと文化」の視点から記述し,今後改訂・増補する医療語辞典の項目を作成した。

キーワード(Keywords)

医療語,スラング,イギリス英語,ことばと文化
Medspeak, slang, British English, language and culture

材料に食品を用いた「尿試験紙用の疑似尿」の作成と安定性
Preparation and stability of “pseudo-urine for urine dipsticks” using food as material

太田克矢 1,林真言 2,末福誉博 3,青木駿介 1
Katsuya Ota 1, Makoto Hayashi 2, Takahiro Suefuku 3, Shunsuke Aoki 1

1 長野県看護大学,2 伊那中央病院,3 昭和伊南総合病院
1 Nagano College of Nursing, 2 Ina Central Hospital, 3 Showa Inan General Hospital

概要(Abstract)

尿試験紙用の疑似尿を食品で作成する方法の開発と,作成した疑似尿の安定性を調べることを研究の目的とした。この際,尿試験紙法で一般的な「タンパク質・ブドウ糖・pHの3項目(以下,基本3項目)」に絞り反応性や保存性を確認した。
尿試験紙における基本3項目で各々の陽性反応を示す市販の材料として,プロテインサプリメント,ブドウ糖タブレット,重曹を用いた。3つの材料を「有り無し」で組み合わせ(8通り),各組み合わせを市販の天然水のペットボトル(約500mL)に直接加えて,8種類の疑似尿を作成した。この際,安価な家庭用の天秤を用いた。作成直後に7社の異なる尿試験紙を用いて,各々の反応の差異を確認した。作成した各疑似尿の一部(50mL)を4℃で保存し,約14か月後まで,同じ試料での再現性を各試験紙で確認した(不定期間隔で計9回)。
作成直後から約14か月後まで,材料の組み合わせに応じた陽性反応を7社の試験紙で同様に示し続けた。この際の各項目の値は,タンパク質(2+から3+),ブドウ糖(3+から4+),pH 8~9に概ね相当する陽性反応であった。同じ試料を繰り返し使用しても各試験紙で同じ反応を示し続けたことから,性状に大きな変化はなく,安定した保存性を有していた。したがって,本研究で提案する方法は,安価かつ容易に疑似尿を作成でき有用と考えられた。

キーワード(Keywords)

疑似尿,尿試験紙,医療系学生,体験学習
pseudo-urine, urine dipsticks, Medical Sciences Students, experiential learning

学童期の発達障害児を養育する母親の困難に関する文献検討
Literature Review on the Challenges Faced by Mothers Raising School-age Children with Developmental Disorders

高橋恵美子,谷口敏代,山下一也
Emiko Takahashi, Toshiyo Taniguchi, Kazuya Yamashita

島根県立大学
The University of Shimane

概要(Abstract)

発達障害児を養育する母親の育児困難は多様であり,ライフステージごとに異なるニーズに合わせた支援の重要性が指摘されている。本研究は,学童期の知的障害を伴わない発達障害児を育てる母親の育児困難について,これまでの知見を明らかにすることを目的とした。海外文献はPubMed,PsycINFOを,国内文献は医学中央雑誌,CiNiiを用い,検索年は2005年から2019年,キーワードはPubMedおよびPsycINFOは「'developmental disorders', mother, parenting」,医学中央雑誌およびCiNiiは「発達障害,母親,育児」で検索した。最初に824件の文献が抽出され,除外基準と選択基準に基づき2回のスクリーニングを経て26 文献を分析対象とした。分析方法は,対象文献を2名の研究者で精読し,学童期の発達障害児を養育する母親の困難について記述された文を抽出し,類似性と相違性に着目して分類しカテゴリー化した。対象文献から148の文を抽出し,8カテゴリーに集約した。8カテゴリーは,〈周囲との関係に苦労〉〈家族との関係に苦労〉〈サポート希求〉〈学校生活への期待や不満〉〈交友関係について心配〉〈成長発達に伴う将来への不安〉〈子どもの特性に合わせた育児行動〉〈子どもの特性からくる母親自身の苦労〉であった。学童期に焦点を当てた研究は少なく,また,就業や自立,思春期の性などに関する困難についての詳細は不十分であり,今後の研究が必要であると考えられた。

Mothers raising school-age children with developmental disorders face a range of parenting challenges, and previous studies have highlighted the importance of providing support that is tailored according to their life stage. In the present study, we sought to clarify existing knowledge on the challenges that mothers face in raising school-age children with developmental disorders without intellectual disabilities. We used the PubMed, PsycINFO, Igaku Chuo Zasshi and CiNii databases to search the literature. Specifically, we searched for articles published between 2005 and 2019 using the keywords "developmental disorders," "mother," and "parenting" for non-Japanese literature, and using the equivalent Japanese keywords (i.e., "hattatsu shougai," "haha-oya," and "ikuji") for Japanese literature. Our initial search returned 824 relevant articles, which we then screened twice based on inclusion and exclusion criteria, resulting in the selection of 26 articles that we used in our analysis. Our method of analysis consisted of 2 researchers independently scrutinizing the selected articles to identify statements about the challenges faced by mothers raising school-age children with developmental disorders, and then categorizing the selected statements after considering their relative similarities and differences. Consequently, we identified 148 statements within the selected articles that pertained to the above-mentioned study theme. We extracted 8 categories: "Relationship difficulties with others," "Relationship difficulties with family members," "Desire for support," "Expectations and dissatisfaction about the child's school life," "Concern about the child's friendships and acquaintances," "Anxiety about the future as the child grows up," "Parenting behaviors catered to the child's individual traits," and "Difficulties that mothers face due to their child's individual traits".
These results suggest that school-age children and a lack of detailed findings on the challenges that mothers face with respect to issues such as their child's employment, independence, and pubescent sex, thus demonstrating the need for further research in the future.

キーワード(Keywords)

学童期,知的障害を伴わない発達障害,母親,子育て
school-age, developmental disorders without intellectual disabilities, mothers, parenting

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第31回日本医学看護学教育学会学術学会

WEB開催会期:2021年3月20日(土)~30日(火)
テーマ:「新たな時代の看護教育と国際化」

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第23回日本医学看護学教育学会学術セミナー

2020年11月16日(月)~29日(日)
日本医学看護学教育学会ホームページにてオンデマンドによる配信

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